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憲法判例 3
憲法判例1 憲法判例2 憲法判例4 憲法判例5 憲法判例6
基本的人権/精神的自由(言論・出版の自由)
チャタレイ事件(わいせつ文書の頒布禁止)
月刊ペン事件(名誉毀損と表現の自由)
夕刊和歌山事件
北方ジャーナル事件(事前差止めと表現の自由)
石に泳ぐ魚事件
石井記者事件(新聞記者の取材源秘匿)
外務省機密漏洩事件(西山記者事件)
博多駅取材フィルム提出命令事件(報道・取材の自由と公正な裁判の実現)
TBSビデオテープ差押さえ事件(報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分)
サンケイ新聞意見広告事件(新聞意見広告と反論掲載権)
税関検査事件
教科書検定訴訟(家永教科書訴訟)
新潟県公安条例事件
東京都公安条例事件
泉佐野市民会館事件
上尾市福祉会館事件
寺西裁判官事件(裁判官と政治運動)
レペタ事件
あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反事件
大阪市屋外広告物条例違反事件
愛知原水協事件
鉄道営業法違反・建造物侵入被告事件
基本的人権/精神的自由(学問の自由と大学の自治)
東大ポポロ事件
基本的人権/精神的自由権(言論・出版の自由)
チャタレイ事件(わいせつ文書の頒布禁止)
◆判例 S32.03.13 大法廷・判決 昭和28(あ)1713 猥褻文書販売(刑集第11巻3号997頁)
【要旨】
一 刑法第一七五条にいわゆる「猥褻文書」とは、その内容が徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する文書をいう。
三 文書が、「猥褻文書」に当るかどうかは、一般社会において行われている良識、すなわち、社会通念に従つて判断すべきものである。
六 芸術的作品であつても猥褻性を有する場合がある。
七 猥褻性の存否は、当該作品自体によつて客観的に判断すべきものであつて、作者の主観的意図によつて影響されるものではない。
九 憲法第二一条の保障する表現の自由といえども絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反することは許されない。
【参照・法条】
刑法175条,刑法38条1項,憲法21条,憲法21条2項,憲法76条3項,出版法(明治26年法律15号)27条,刑訴法400条
月刊ペン事件(名誉毀損と表現の自由)
◆判例 S56.04.16 第一小法廷・判決 昭和55(あ)273 名誉毀損(刑集第35巻3号84頁)
【判示事項】
一 私人の私生活上の行状と刑法二三〇条の二項一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」
(名誉毀損罪の免責自由にあたるか?)
【要旨】
一 私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。
・・・私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条ノ二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合があると解すべきである。
夕刊和歌山事件
◆昭和44年06月25日・最高裁判所大法廷・判決
◆刑集第23巻7号975頁
【判示事項】
事実を真実と誤信したことにつき相当の理由がある場合と名誉毀損罪の成否
【裁判要旨】
刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。
【解説】
刑法230条の2の規定は、名誉毀損について、(1)公共の利益に関する事実であり(2)その目的が公益を図ることにあって(3)真実なることが証明されたときは、違法性が阻却されるとしているが、上記判例では、最高裁はさらに「真実であることの証明がない場合でも、行為者が真実であると誤信し、それが確実な資料行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない」として従来の判例を変更した。
北方ジャーナル事件(事前差止めと表現の自由)
◆判例 S61.06.11 大法廷・判決 昭和56(オ)609 損害賠償(民集第40巻4号872頁)
【判示事項】
一 出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めと憲法二一条二項前段にいう検閲
二 名誉侵害と侵害行為の差止請求権
三 公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関する出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めの許否
【要旨】
一 雑誌その他の出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めは、憲法二一条二項前段にいう検閲に当たらない。
二 名誉侵害の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。
三 人格権としての名誉権に基づく出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めは、右出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には、原則として許されず、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。
【参照・法条】
憲法13条,憲法21条
憲法二一条二項前段にいう検閲とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべき・・・である。・・・仮処分による事前差止めは、表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なり、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所により、当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否、保全の必要性の有無を審理判断して発せられるものであつて、右判示にいう「検閲」には当たらないものというべきである。したがつて、本件において、札幌地方裁判所が被上告人Aの申請に基づき上告人発行の「ある権力主義者の誘惑」と題する記事(以下「本件記事」という。)を掲載した月刊雑誌「北方ジヤーナル」昭和五四年四月号の事前差止めを命ずる仮処分命令(以下「本件仮処分」という。)を発したことは「検閲」に当たらない、とした原審の判断は正当・・・
出版物の頒布等の事前差止めは、このような事前抑制に該当するものであつて・・・原則として許されないものといわなければならない。ただ、右のような場合においても、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実体的要件を具備するときに限つて、例外的に事前差止めが許されるものというべきであり、このように解しても上来説示にかかる憲法の趣旨に反するものとはいえない。
「裁判所の仮処分による出版物の事前差し止めは、日本国憲法で禁じられている検閲に当たるので許されない」(平成6年) ×
「検閲とは、公権力が主体となって、思想内容等の表現物を対象として、発表前にその内容を審査し、不適当と認めるときは、その発表を禁止することであるから、裁判所が表現物の事前差し止めのための仮処分を行うことは、検閲にあたる」(平成9年出題) ×
「裁判所が、仮処分の形で名誉毀損的表現を含む書物の出版を前もって差し止めるのは、当事者に十分な意見陳述の機会が与えられていれば、合憲である」(平成14年出題) ○
「当事者の申請にもとづき審理した上で、裁判所が、名誉毀損表現を含む出版物を、仮処分により事前に差し止めること(は、検閲にあたる)」(平成15年) ×
石に泳ぐ魚事件
◆平成14年9月24日 最第3小法廷判決 平成13年(オ)第852号 損害賠償等請求事件
【要旨】
名誉等の侵害に基づく小説の出版等の差止めを認めたことが憲法21条1項に違反しないとされた事例
本件は、上告人A(以下「上告人A」という。)が執筆した小説(「石に泳ぐ魚」)の発行等によって名誉を毀損され、プライバシー及び名誉感情を侵害され たとする被上告人が、上告人Aらに対して慰謝料の支払を求めるとともに、上告人A及び同小説の韓国版の出版についての権限を有する上告人B(以下「上告人 B」という。)に対し、同小説の出版等の差止めを求めるなどしている事案である。
人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを 求めることができるものと解するのが相当である。どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能 ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。
被上告人は、大学院生にすぎず公的立場にある者ではなく、また、本件小説において問題とされている表現内容は、公共の利害に関する事項でもない。さら に、本件小説の出版等がされれば、被上告人の精神的苦痛が倍加され、被上告人が平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるおそれがある。そして、本件小説を読む者が新たに加わるごとに、被上告人の精神的苦痛が増加し、被上告人の平穏な日常生活が害される可能性も増大するもので、出版等による公表を差 し止める必要性は極めて大きい。
以上によれば、被上告人の上告人ら及び新潮社に対する本件小説の出版等の差止め請求は肯認されるべきである。
原審の確定した事実関係の下において、原審の上記各判断がいずれも憲法21条1項に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和41年(あ) 第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁、最高裁昭和56年(オ)第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号 872頁)の趣旨に照らして明らかである。所論のその余の違憲の主張は、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものにすぎない。論旨はいずれも 採用することができない。
石井記者事件(新聞記者の取材源秘匿)
◆判例 S27.08.06 大法廷・判決 昭和25(あ)2505 刑事訴訟法第一六一条違反(刑集第6巻8号974頁)
【判示事項】
憲法第二一条と新聞記者の取材源に関する証言拒絶権
【要旨】
一 憲法第二一条は、新聞記者に対し、その取材源に関する証言を拒絶し得る特別の権利までも保障したものではない。
【参照・法条】
憲法21条,憲法38条1項
・・・ 憲法の右規定は一般人に対し平等に表現の自由を保障したものであつて、新聞記者に特種の保障を与えたものではない。・・・ 憲法の右規定の保障は、公の福祉に反しない限り、いいたいことはいわせなければならないということである。未だいいたいことの内容も定まらず、これからその内容を作り出すための取材に関しその取材源について、公の福祉のため最も重大な司法権の公正な発動につき必要欠くべからざる証言の義務をも犠牲にして、証言拒絶の権利までも保障したものとは到底解することができない。
税務署員の収賄事件について逮捕状の発布に関する情報が事前に漏れ新聞に公表された。その記事に関与した朝日新聞社の石井記者が、情報の漏洩者の捜査に関して裁判所に証人として召喚されたところ、刑事訴訟法161条1項の正当な理由のある場合に当たるとして証人としての宣誓と証言を拒絶したため証言拒絶罪(刑事訴訟法161条)で起訴された事件。
◆判例 S53.05.31 第一小法廷・決定 昭和51(あ)1581 国家公務員法違反(刑集第32巻3号457頁)
【判示事項】
六 報道機関による公務員を対象とした秘密の取材と正当業務行為
【要旨】
一 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密とは、非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、その判定は、司法判断に服する。
二 昭和四六年五月二八日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でされた、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された本件一〇三四号電信文案は、国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密にあたる。
三 本件対米請求権問題の財源についてのいわゆる密約は、政府がこれによつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではなく、違法秘密ではない。
四 国家公務員法一一一条にいう同法一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の行為の「そそのかし」とは、右一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の秘密漏示行為を実行させる目的をもつて、公務員に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを意味する。
五 外務省担当記者であつた被告人が、外務審議官に配付又は回付される文書の授受及び保管の職務を担当していた女性外務事務官に対し、「取材に困つている、助けると思つて安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。君や外務省には絶対迷惑をかけない。特に沖縄関係の秘密文書を頼む。」という趣旨の依頼をし、さらに、別の機会に、同女に対し「五月二八日愛知外務大臣とマイヤー大使とが請求権問題で会談するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」旨申し向けた行為は、国家公務員法一一一条、一〇九条一二号、一〇〇条一項の「そそのかし」罪の構成要件にあたる。
六 報道機関が公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
七 当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躪した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。
【参照・法条】
国家公務員法100条1項,国家公務員法109条12号,国家公務員法111条,裁判所法3条1項,憲法21条1項,刑法35条「目録:国公法100条1項,国公法109条12号,国公法111条,裁判所法3条1項,憲法73条2号,憲法73条3号,刑法35条」
・・・報道機関の国政に関する報道は、民主主義社会において、国民が国政に関するにつき、重要な判断の資料を提供し、いわゆる国民の知る権利に奉仕するものであるから、報道の自由は、憲法二一条が保障する表現の自由のうちでも特に重要なものであり、また、このような報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由もまた、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・刑集二三巻一一号一四九〇頁)。そして、報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。しかしながら、報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由を不当に侵害することのできる特権を有するものでないことはいうまでもなく、取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであつても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない。これを本件についてみると原判決及び記録によれば、被告人は、昭和四六年五月一八日頃、従前それほど親交のあつたわけでもなく、また愛情を寄せていたものでもない前記蓮見をはじめて誘つて一夕の酒食を共にしたうえ、かなり強引に同女と肉体関係をもち、さらに、同月二二日原判示「ホテルC」に誘つて再び肉体関係をもつた直後に、前記のように秘密文書の持出しを依頼して懇願し、同女の一応の受諾を得、さらに、電話でその決断を促し、その後も同女との関係を継続して、同女が被告人との右関係のため、その依頼を拒み難い心理状態になつたのに乗じ、以後十数回にわたり秘密文書の持出しをさせていたもので、本件そそのかし行為もその一環としてなされたものであるところ、同年六月一七日いわゆる沖縄返還協定が締結され、もはや取材の必要がなくなり、同月二八日被告人が渡米して八月上旬帰国した後は、同女に対する態度を急変して他人行儀となり、同女との関係も立消えとなり、加えて、被告人は、本件第一〇三四号電信文案については、その情報源が外務省内部の特定の者にあることが容易に判明するようなその写を国会議員に交付していることなどが認められる。そのような被告人の一連の行為を通じてみるに、被告人は、当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で右蓮見と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたが、同女を利用する必要がなくなるや、同女との右関係を消滅させその後は同女を顧みなくなつたものであつて、取材対象者である蓮見の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙したものといわざるをえず、このような被告人の取材行為は、その手段・方法において法秩序全体の精神に照らし社会観念上、到底是認することのできない不相当なものであるから、正当な取材活動の範囲を逸脱しているものというべきである。
博多駅テレビフィルム提出命令事件(報道・取材の自由と公正な裁判の実現)
◆判例 S44.11.26 大法廷・決定 昭和44(し)68 取材フイルム提出命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告(刑集第23巻11号1490頁)
【判示事項】
一 報道および取材の自由と憲法二一条
二 報道機関の取材フイルムに対する提出命令の許容される限度
【要旨】
一 報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあり、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。
二 報道機関の取材フイルムに対する提出命令が許容されるか否かは、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、これによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度、これが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合でも、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。
【参照・法条】
憲法21条
・・・ 報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。
・・・ しかし、取材の自由といつても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。
本件では、まさに、公正な刑事裁判の実現のために、取材の自由に対する制約が許されるかどうかが問題となるのであるが、公正な刑事裁判を実現することは、国家の基本的要請であり、・・・ 公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によつて得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなつてもやむを得ないところというべきである。しかしながら、このような場合においても、一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において、取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなけれぼならない。
・・・ 以上の見地に立つて本件についてみるに、・・・ 本件の刑事裁判が公正に行なわれることを期するためには、この程度の不利益は、報道機関の立場を十分尊重すべきものとの見地に立つても、なお忍受されなければならない程度のものというべきである。
・・・ 以上の諸点その他各般の事情をあわせ考慮するときは、本件フイルムを付審判請求事件の証拠として使用するために本件提出命令を発したことは、まことにやむを得ないものがあると認められるのである。
前叙のように考えると、本件フイルムの提出命令は、憲法二一条に違反するものでない(。)
「報道機関の報道は、国民が国政に関与するための重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものであるので、取材の自由が公正な裁判の実現のためになんら制約を受けることはない」 (平成9年出題) ×
TBSビデオテープ差押さえ事件(報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分)
◆平成2年07月09日
◆最高裁判所第二小法廷決定
◆刑集第44巻5号421頁
【判示事項】
報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分が憲法二一条に違反しないとされた事例
【裁判要旨】
報道機関の取材ビデオテープが軽視できない悪質な被疑事件の全容を解明する上で重要な証拠価値を持ち、他方、右テープが被疑者らの協力によりその犯行場面等を撮影収録したものであり、右テープを編集したものが放映済みであって、被疑者らにおいてその放映を了承していたなど判示の事実関係の下においては、右テープに対する捜査機関の差押処分は、憲法二一条に違反しない。
・・・報道機関の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も、憲法二一条の趣旨に照らし十分尊重されるべきものであること、取材の自由も、何らの制約を受けないものではなく、公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、ある程度の制約を受けることがあることは、いずれも博多駅事件決定(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・別集二三巻一一号一四九〇頁)の判示するところである。
そして、その趣旨からすると、公正な刑事裁判を実現するために不可欠である適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合にも、同様に、取材の自由がある程度の制約を受ける場合があること、また、このような要請から報道機関の取材結果に対して差押をする場合において、差押の可否を決するに当たっては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押さえるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることは、明らかである(最高裁昭和六三年(し)第一(一六)号平成元年一月三〇日第二小法廷決定・刑集四三巻一号一九頁参照)。
右の見地から本件について検討すると、本件差押は、暴力団組長である被疑者が、組員らと共謀の上債権回収を図るため暴力団事務所において被害者に対し加療約一箇月間を要する傷害を負わせ、かつ、被害者方前において団体の威力を示し共同して被害者を脅迫し、暴力団事務所において団体の威力を示して脅迫したという、軽視することのできない悪質な傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件の搜査として行われたものである。しかも、件差押は、被疑者、共犯者の供述が不十分で、関係者の供述も一致せず、傷害事件の重要な部分を確定し難かったため、真相を明らかにする必要上、右の犯行状況等を収録したと推認される本件ビデオテープ(原決定添付目録15ないし18)を差押さえたものであり、右ビデオテープは、事案の全容を解明して犯罪の成否を判断する上で重要な証拠価値をつものであったと認められる。
他方、本件ビデオテープは、すべていわゆるマザーテープであるが、申立人において差押当時既に放映のための編集を終了し、編集に係るものの放映を済ませていたのであって、本件差押により申立人の受ける不利益は、本件ビデオテープの放映が不可能となって報道の機会が奪われるというものではなかった。
また本件の撮影は、暴力団組長を始め組員の協力を得て行われたものであって、右取材協力者は、本件ビデオテープが放映されることを了承していたのであるから、報道機関たる申立人が右取材協力者のためその身元を秘匿するなど擁護しなけれならない利益は、ほとんど存在しない。
さらに本件は、撮影開始後複すじ数の組員により暴行が繰り返し行われていることを現認しながら、その撮影を続けたものであって、犯罪者の協力により犯行現場を撮影収録したものといえるが、そのような取材を報道のための取材の自由の一態様として保護しなけれならない必要性は疑わしいといわざるを得ない。
そうすると、本件差押により、申立人を始め報道機関において、将来本件と同様の方法により取材をすることが仮に困難になるとしても、その不利益はさして考慮に値しない。このような事情を総合すると、本件差押は、適正迅速な捜査の遂行のためやむを得ないものであり、申立人の受ける不利益は、受忍すべきものというべきである。
サンケイ新聞意見広告事件(新聞意見広告と反論掲載権)
◆判例 S62.04.24 第二小法廷・判決 昭和55(オ)1188 反論文掲載(民集第41巻3号490頁)
【判示事項】
一 人格権又は条理を根拠とするいわゆる反論文掲載請求権の成否
【要旨】
一 新聞記事に取り上げられた者は、当該新聞紙を発行する者に対し、その記事の掲載により名誉殿損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、人格権又は条理を根拠として、右記事に対する自己の反論文を当該新聞紙に無修正かつ無料で掲載することを求めることはできない。
【参照・法条】
憲法21条
・・・ 新聞の記事に取り上げられた者が、その記事の掲載によつて名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、自己が記事に取り上げられたというだけの理由によつて、新聞を発行・販売する者に対し、当該記事に対する自己の反論文を無修正で、しかも無料で掲載することを求めることができるものとするいわゆる反論権の制度は、記事により自己の名誉を傷つけられあるいはそのプライバシーに属する事項等について誤つた報道をされたとする者にとつては、機を失せず、同じ新聞紙上に自己の反論文の掲載を受けることができ、これによつて原記事に対する自己の主張を読者に訴える途が開かれることになるのであつて、かかる制度により名誉あるいはプライバシーの保護に資するものがあることも否定し難いところである。しかしながら、この制度が認められるときは、新聞を発行・販売する者にとつては、原記事が正しく、反論文は誤りであると確信している場合でも、あるいは反論文の内容がその編集方針によれば掲載すべきでないものであつても、その掲載を強制されることになり、また、そのために本来ならば他に利用できたはずの紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられるのであつて、これらの負担が、批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゆうちよさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由に対し重大な影響を及ぼすものであつて、たとえ被上告人の発行するサンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しい上告人主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。
税関検査事件
◆判例 S59.12.12 大法廷・判決 昭和57年(行ツ)第156号 輸入禁制品該当通知処分等取消請求事件(民集第38巻12号1308頁)
【参照法令】 関税定率法21条/日本国憲法21条/国税通則法114条/行政事件訴訟法3条
【要旨】
三 三号物件に関する輸入規制と検閲(憲法二一条二項前段)
1 憲法二一条二項前段は、「検閲は、これをしてはならない。」と規定する。憲法が表現の自由につき、広くこれを保障する旨の一般的規定を同条一項に置きながら、別に検閲の禁止についてかような特別の規定を設けたのは、検閲がその性質上表現の自由に対する最も厳しい制約となるものであることにかんがみ、これについては、公共の福祉を理由とする例外の許容(憲法一二条、一三条参照)をも認めない趣旨を明らかにしたものと解すべきである。・・・憲法二一条二項前段の規定は・・・検閲の絶対的禁止を宣言した趣旨と解されるのである。
そして、前記のような沿革に基づき、右の解釈を前提として考究すると、憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである。
2 そこで、三号物件に関する税関検査が憲法二一条二項にいう「検閲」に当たるか否かについて判断する。
(一) 税関検査の結果、輸入申告にかかる書籍、図画その他の物品や輸入される郵便物中にある信書以外の物につき、それが三号物件に該当すると認めるのに相当の理由があるとして税関長よりその旨の通知がされたときは、以後これを適法に輸入する途が閉ざされること前述のとおりであつて、その結果、当該表現物に表された思想内容等は、わが国内においては発表の機会を奪われることとなる。また、表現の自由の保障は、他面において、これを受ける者の側の知る自由の保障をも伴うものと解すべきところ(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・刑集二三巻一一号一四九〇頁、同昭和五二年(オ)第九二七号同五八年六月二二日大法廷判決・民集三七巻五号七九三頁参照)税関長の右処分により、わが国内においては、当該表現物に表された思想内容等に接する機会を奪われ、右の知る自由が制限されることとなる。これらの点において、税関検査が表現の事前規制たる側面を有することを否定することはできない。
しかし、これにより輸入が禁止される表現物は、一般に、国外においては既に発表済みのものであつて、その輸入を禁止したからといつて、それは、当該表現物につき、事前に発表そのものを一切禁止するというものではない。また、当該表現物は、輸入が禁止されるだけであつて、税関により没収、廃棄されるわけではないから、発表の機会が全面的に奪われてしまうというわけのものでもない。その意味において、税関検査は、事前規制そのものということはできない。
(二) 税関検査は、関税徴収手続の一環として、これに付随して行われるもので、思想内容等の表現物に限らず、広く輸入される貨物及び輸入される郵便物中の信書以外の物の全般を対象とし、三号物件についても、右のような付随的手続の中で容易に判定し得る限りにおいて審査しようとするものにすぎず、思想内容等それ自体を網羅的に審査し規制することを目的とするものではない。
(三) 税関検査は行政権によつて行われるとはいえ、その主体となる税関は、関税の確定及び徴収を本来の職務内容とする機関であつて、特に思想内容等を対象としてこれを規制することを独自の使命とするものではなく、また、前述のように、思想内容等の表現物につき税関長の通知がされたときは司法審査の機会が与えられているのであつて、行政権の判断が最終的なものとされるわけではない。
以上の諸点を総合して考察すると、三号物件に関する税関検査は、憲法二一条二項にいう「検閲」に当たらないものというべきである。
3 右の次第であるから、所論憲法二一条二項前段違反の主張は理由がない。
四 三号物件に関する輸入規制と表現の自由(憲法二一条一項)
1 本件においては、上告人あての郵便物中に猥褻な書籍、図画があるとして関税定率法二一条一項三号の規定が適用されたものであるところ、同号の「風俗を害すべき書籍、図画」等の中に猥褻な書籍、図画等が含まれることは明らかであるから、同号の規定が所論のように明確性に欠けるか否かについてはのちに論及することとして、まず、これによる猥褻な書籍、図画等の輸入規制が憲法二一条一項の規定に違反するかどうかについて検討する。
思うに、表現の自由は、憲法の保障する基本的人権の中でも特に重要視されるべきものであるが、さりとて絶対無制限なものではなく、公共の福祉による制限の下にあることはいうまでもない。また、性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持することは公共の福祉の内容をなすものであつて、猥褻文書の頒布等は公共の福祉に反するものであり、これを処罰の対象とすることが表現の自由に関する憲法二一条一項の規定に違反するものでないことも、明らかである(最高裁昭和二八年(あ)第一七一三号同三二年三月一三日大法廷判決・刑集一一巻三号九九七頁、同昭和三九年(あ)第三〇五号同四四年一〇月一五日大法廷判決・刑集二三巻一〇号一二三九頁参照)。そして、わが国内における健全な性的風俗を維持確保する見地からするときは、猥褻表現物がみだりに国外から流入することを阻止することは、公共の福祉に合致するものであり、・・・表現の自由に関する憲法の保障も、その限りにおいて制約を受けるものというほかなく、前述のような税関検査による猥褻表現物の輸入規制は、憲法二一条一項の規定に反するものではないというべきである。
わが国内において猥褻文書等に関する行為が処罰の対象となるのは、その頒布、販売及び販売の目的をもつてする所持等であつて(刑法一七五条)、単なる所持自体は処罰の対象とされていないから、最小限度の制約としては、単なる所持を目的とする輸入は、これを規制の対象から除外すべき筋合いであるけれども、いかなる目的で輸入されるかはたやすく識別され難いばかりでなく、流入した猥褻表現物を頒布、販売の過程に置くことが容易であることは見易い道理であるから、猥褻表現物の流入、伝播によりわが国内における健全な性的風俗が害されることを実効的に防止するには、単なる所持目的かどうかを区別することなく、その流入を一般的に、いわば水際で阻止することもやむを得ないものといわなければならない。
また、このようにして猥褻表現物である書籍、図画等の輸入が一切禁止されることとなる結果、わが国内における発表の機会が奪われるとともに、国民のこれに接する機会も失われ、知る自由が制限されることとなるのは否定し難いところであるが、かかる書籍、図画等については、前述のとおり、もともとその頒布、販売は国内において禁止されておりこれについての発表の自由も知る自由も、他の一般の表現物の場合に比し、著しく制限されているのであつて、このことを考慮すれば、右のような制限もやむを得ないものとして是認せざるを得ない。
(一) 同法二一条一項三号は、輸入を禁止すべき物品として、「風俗を害すべき書籍図画」等と規定する。この規定のうち、「風俗」という用語そのものの意味内容は、性的風俗、社会的風俗、宗教的風俗等多義にわたり、その文言自体から直ちに一義的に明らかであるといえないことは所論のとおりであるが、およそ法的規制の対象として「風俗を害すべき書籍、図画」等というときは、性的風俗を害すべきもの、すなわち猥褻な書籍、図画等を意味するものと解することができるのであつて・・・したがつて、関税定率法二一条一項三号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等との規定を合理的に解釈すれば、右にいう「風俗」とは専ら性的風俗を意味し、右規定により輸入禁止の対象とされるのは猥褻な書籍、図画等に限られるものということができ、このような限定的な解釈が可能である以上、右規定は、何ら明確性に欠けるものではなく、憲法二一条一項の規定に反しない合憲的なものというべきである。
(五) 以上要するに、関税定率法二一条一項三号の「風俗を害すべき書籍、図画」等の中に猥褻物以外のものを含めて解釈するときは、規制の対象となる書籍、図画等の範囲が広汎、不明確となることを免れず、憲法二一条一項の規定の法意に照らして、かかる法律の規定は違憲無効となるものというべく、前記のような限定解釈によつて初めて合憲なものとして是認し得るのである。
そして、本件のように、日本国憲法施行前に制定された法律の規定の如きについては、合理的な法解釈の範囲内において可能である限り、憲法と調和するように解釈してその効力を維持すべく、法律の文言にとらわれてその効力を否定するのは相当でない。
3 右の次第であるから、関税定率法二一条一項三号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等とは、猥褻な書籍、図画等を指すものと解すべきであり、右規定は広汎又は不明確の故に違憲無効ということはできず、当該規定による猥褻表現物の輸入規制が憲法二一条一項の規定に違反するものでないことは、上来説示のとおりである。したがつて、所論憲法二一条一項違反の主張は理由がなく、関税定率法の右規定の不明確を前提とする憲法二九条、三一条違反の主張は、すべて失当である。
「税関検査は事前に発表そのものを禁止するものではないが、国民が思想・情報を受領する前に思想内容等を審査するものであるから、知る権利を害し許されない」(平成9年出題) ×
【解説】
猥褻フィルムを輸入したところ、同フィルムが税関検査により関税定率法にいう「風俗を害すべき書籍」等に該当するとして輸入を禁止された者が同処分が憲法21条2項の検閲にあたるとして争った事件。
最高裁は、税関検査を「@行政権が主体となってA思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的としてB対象とされる一定の表現物について網羅的・一般的に発表前にその内容を審査して上で、不適当と認めるものの発表を禁止すること」と定義したうえで、「税関検査は、表現物は国外で発表済みで、輸入禁止されても表現の機会が全面的に奪われるものではなく、検査は関税徴収手続きの一環として行われるものであるから、思想内容等の審査・規制を目的としたものでない」から、憲法21条2項の禁止する「検閲」にはあたらないとした。
また、「風俗を害すべき書籍・図画」等の輸入規制については、猥褻表現物の輸入を規制する趣旨であると限定的に解釈することができ明確性に欠けるところもないので憲法21条1項に違反しないとした。
教科書検定訴訟(家永教科書訴訟)
◆判例 H05.03.16 第三小法廷・判決(民集第47巻5号3483頁)
・・・憲法二一条二項にいう検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的とし、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを特質として備えるものを指すと解すべきである。本件検定は、一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、検閲に当たらず、憲法二一条二項前段の規定に違反するものではない。
また、憲法二一条一項にいう表現の自由といえども無制限に保障されるものではなく、公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限を受けることがあり、その制限が右のような限度のものとして容認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。これを本件検定についてみるのに、(一) 前記のとおり、普通教育の場においては、教育の中立・公正、一定水準の確保等の要請があり、これを実現するためには、これらの観点に照らして不適切と認められる図書の教科書としての発行、使用等を禁止する必要があること(二) その制限も、右の観点からして不適切と認められる内容を含む図書のみを、教科書という特殊な形態において発行を禁ずるものにすぎないことなどを考慮すると、本件検定による表現の自由の制限は、合理的で必要やむを得ない限度のものというべきであって、憲法二一条一項の規定に違反するものではない。
◆判例 S29.11.24 大法廷・判決 昭和26(あ)3188 昭和二四年新潟県条令第四号違反(刑集第8巻11号1866頁)
【判示事項】
一 いわゆる公安条例の合憲性の限界。
二 昭和二四年新潟県条例第四号許可制の公安条例の合憲性。
三 条例の土地に関する効力。
【要旨】
一 地方公共団体の制定する公安条例が、行列進行または公衆の集団示威運動につき、単なる届出制を定めることは格別、一般的な許可制を定めてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨に反するが、公共の秩序を保持し、または公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所または方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、これらの行動をなすにつき予じめ許可を受けしめ、又は届出をなさしめて、このような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を設け、さらにまた、これらの行動について公共の安全に対し明らかな差迫つた危険を及ぼすことが予見されるときは、これを許可せずまたは禁止することができる旨の規定を設けても、これをもつて直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものということはできない。
二 昭和二四年新潟県条例第四号は憲法第一二条第二一条、第二八条および第九八条に違反しない。
三 地方公共団体の制定する条例の効力は、法令または条例に別段の定めある場合、若しくは条例の性質上、住民のみを対象とすること明らかな場合を除き、法律の範囲内において原則として属地的に生ずるものと解すべきである。
・・・ 行列行進又は公衆の集団示威運動(以下単にこれらの行動という)は、公共の福祉に反するような不当な目的又は方法によらないかぎり、本来国民の自由とするところであるから、条例においてこれらの行動につき単なる届出制を定めることは格別、そうでなく一般的な許可制を定めてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨に反し許されないと解するを相当とする。
しかしこれらの行動といえども公共の秩序を保持し、又は公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、予じめ許可を受けしめ、又は届出をなさしめてこのような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を条例に設けても、これをもつて直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものと解することはできない。・・・ さらにまた、これらの行動について公共の安全に対し明らかな差迫つた危険を及ぼすことが予見されるときは、これを許可せず又は禁止することができる旨の規定を設けることも、これをもつて直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限することにはならないと解すべきである。
そこで本件の新潟県条例(以下単に本件条例という)を考究してみるに、その一条に、これらの行動について公安委員会の許可を受けないで行つてはならないと定めているが、ここにいう「行列行進又は公衆の集団示威運動」は、・・・ 条例が・・・ 許可を受けることを要求する行動は、・・・ 特定の場所又は方法に関するものに限ることがうかがわれ、またこれらの行動といえども特段の事由のない限り許可することを原則とする趣旨であることが認められる。
されば本件条・・・ はきわめて抽象的な基準を掲げ、公安委員会の裁量の範囲がいちじるしく広く解されるおそれがあつて、いずれも明らかな具体的な表示に改めることが望ましいけれども、条例の趣旨全体を綜合して考察すれば、本件条例は許可の語を用いてはいるが、これらの行動そのものを一般的に許可制によつて抑制する趣旨ではなく、・・・ 特定の場所又は方法についてのみ制限する場合があることを定めたものに過ぎないと解するを相当とする。
されば本件条例は、所論の憲法一二条同二一条同二八条同九八条その他論旨の挙げる憲法のいずれの条項にも違反するものではな(い)。
◆判例 S35.07.20 大法廷・判決 昭和35(あ)112 昭和二五年東京都例第四四号集合、集団行進及び集団示威運動に関する条例違反(刑集第14巻9号1243頁)
【判示事項】
昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例の合憲性。
【要旨】
昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例は憲法第二一条に違反しない。
【参照・法条】
昭和25年東京都条例44号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例,憲法21条
・・・ およそ集団行動は、・・・ 通常一般大衆に訴えんとする、政治、経済、労働、世界観等に関する何等かの思想、主張、感情等の表現を内包するものである。この点において集団行動には、表現の自由として憲法によつて保障さるべき要素が存在することはもちろんである。ところでかような集団行動による思想等の表現は、単なる言論、出版等によるものとはことなつて、現在する多数人の集合体自体の力、つまり潜在する一種の物理的力によつて支持されていることを特徴とする。かような潜在的な力は、あるいは予定された計画に従い、あるいは突発的に内外からの刺激、せん動等によつてきわめて容易に動員され得る性質のものである。この場合に平穏静粛な集団であつても、時に昂奮、激昂の渦中に巻きこまれ、甚だしい場合には一瞬にして暴徒と化し、勢いの赴くところ実力によつて法と秩序を蹂躪し、集団行動の指揮者はもちろん警察力を以てしても如何ともし得ないような事態に発展する危険が存在すること、群集心理の法則と現実の経験に徴して明らかである。従つて地方公共団体が、純粋な意味における表現といえる出版等についての事前規制である検閲が憲法二一条二項によつて禁止されているにかかわらず、集団行動による表現の自由に関するかぎり、いわゆる「公安条例」を以て、地方的情況その他諸般の事情を十分考慮に入れ、不測の事態に備え、法と秩序を維持するに必要かつ最小限度の措置を事前に講ずることは、けだし止むを得ない次第である。
(平成9年出題)
泉佐野市民会館事件
◆判例 H07.03.07 第三小法廷・判決 平成1(オ)762 損害賠償(民集第49巻3号687頁)
【判示事項】
一 公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として市立泉佐野市民会館条例定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」の意義と憲法二一条、地方自治法二四四条
二 「関西新空港反対全国総決起集会」開催のための市民会館の使用許可の申請に対し市立泉佐野市民会館条例が使用を許可してはならない事由として定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとして不許可とした処分が憲法二一条、地方自治法二四四条に違反しないとされた事例
【要旨】
一 公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として市立泉佐野市民会館条例の定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは、右会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、右会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であり、そう解する限リ(合憲限定解釈:注)、このような規制は、憲法二一条地方自治法二四四条に違反しない。
二 「全関西実行委員会」による「関西新空港反対全国総決起集会」開催のための市民会館の使用許可の申請に対し、市立泉佐野市民会館条例が使用を許可してはならない事由として定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとして不許可とした処分は、当時、右集会の実質上の主催者と目されるグループが、関西新空港の建設に反対して違法な実力行使を繰り返し、対立する他のグループと暴力による抗争を続けてきており、右集会が右会館で開かれたならば、右会館内又はその付近の路上等においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、右会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害される事態を生ずることが客観的事実によって具体的に明らかに予見されたという判示の事情の下においては、憲法二一条、地方自治法二四四条に違反しない。
【参照・法条】
憲法21条,地方自治法244条,市立泉佐野市民会館条例(昭粕38年泉佐野市条例第27号)7条
被上告人(泉佐野市長)の設置した本件会館は、地方自治法二四四条にいう公の施設に当たるから、被上告人は、正当な理由がない限り、住民がこれを利用することを拒んではならず(同条二項)、また、住民の利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条三項)。本件条例は、同法二四四条の二第一項に基づき、公の施設である本件会館の設置及び管理について定めるものであり、本件条例七条の各号は、その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものであると解される。
そして、地方自治法二四四条にいう普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のように集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずることになる。
・・・このような観点からすると、集会の用に供される公共施設の管理者は、当該公共施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公共施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであって・・・利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を拒否し得るのは、・・・施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがあるといわなければならない。そして、右の制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは・・・基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を較量して決せられるべきものである。本件条例七条による本件会館の使用の規制は、このような較量によって必要かつ合理的なものとして肯認される限りは、集会の自由を不当に侵害するものではなく、また、検閲に当たるものではなく、したがって、憲法二一条に違反するものではない。
・・・本件条例七条一号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては・・・単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である。そう解する限り、このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法二一条に違反するものではなく、また、地方自治法二四四条に違反するものでもないというべきである。
【解説】
中核派グループが関西空港反対集会のため市民会館の使用許可を求めたところ不許可となったため国家賠償請求を行った事件。市民会館条例の不許可事由についての「公の秩序を乱おそれがある場合」について合憲限定解釈をとり合憲であるとした。
◆合憲限定解釈 法文の意味を憲法に適合するように限定して解釈すること。
上尾市福祉会館事件
◆判例 H08.03.15 第二小法廷・判決 平成5(オ)1285 国家賠償(民集第50巻3号549頁)
【判示事項】
何者かに殺害された労働組合幹部の合同葬に使用するためにされた市福祉会館の使用許可申請に対する不許可処分が違法とされた事例
【要旨】
何者かに殺害されたJR関係労働組合の連合体の総務部長の合同葬に使用するためにされた市福祉会館の使用許可申請に対し、上尾市福祉会館設置及び管理条例が使用を許可しない事由として定める「会館の管理上支障があると認められるとき」に当たるとしてされた不許可処分は、右殺害事件についていわゆる内ゲバ事件ではないかとみて捜査が進められている旨の新聞報道があったとしても、右合同葬の際にまでその主催者と対立する者らの妨害による混乱が生ずるおそれがあるとは考え難い状況にあった上、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができない特別な事情があったとはいえず、右会館の施設の物的構造等に照らせば、右会館を合同葬に使用することがその設置目的やその確立した運営方針に反するとはいえないなど判示の事情の下においては、「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできず、違法というべきである。
【参照・法条】
地方自治法244条,上尾市福祉会館設置及び管理条例(昭和46年上尾市条例第27号)6条1項,憲法21条1項
1 本件会館は、地方自治法二四四条にいう公の施設に当たるから、被上告人は、正当な理由がない限り、これを利用することを拒んではならず(同条二項)、また、その利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条三項)。本件条例は、同法二四四条の二第一項に基づき、公の施設である本件会館の設置及び管理について定めるものであり、本件条例六条一項各号は、その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものであると解される。
そして、同法二四四条に定める普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のような集会の用に供する施設が設けられている場合、住民等は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれがある。したがって、集会の用に供される公の施設の管理者は、当該公の施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきである。
以上のような観点からすると、本件条例六条一項一号は、「会館の管理上支障があると認められるとき」を本件会館の使用を許可しない事由として規定しているが、右規定は、会館の管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて、本件会館の使用を許可しないことができることを定めたものと解すべきである。
本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、上告人に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずると懸念されることを一つの理由としてされたものであるというのである。しかしながら、・・・本件合同葬の際にまで上告人に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずるおそれがあるとは考え難い状況にあったものといわざるを得ない。
また、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは・・・警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られるものというべきである。
ところが、前記の事実関係によっては、右のような特別な事情があるということはできない。なお、警察の警備等によりその他の施設の利用客に多少の不安が生ずることが会館の管理上支障が生ずるとの事態に当たるものでないことはいうまでもない。
・・・以上によれば、本件事実関係の下においては、本件不許可処分時において、本件合同葬のための本件会館の使用によって、本件条例六条一項一号に定める「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできないから、本件不許可処分は、本件条例の解釈適用を誤った違法なものというべきである。
寺西裁判官事件(裁判官と政治運動)
◆ 判例 H10.12.01 大法廷・決定 平成10(分ク)1 裁判官分限事件の決定に対する即時抗告(民集第52巻9号1761頁)
【判示事項】
一 裁判所法五二条一号にいう「積極的に政治運動をすること」の意義
二 裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法五二条一号と憲法二一条一項
五 裁判官分限事件への憲法八二条一項の適用の有無
【要旨】
一 裁判所法五二条一号にいう「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものをいい、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、行為の内容、行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当である。
二 裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法五二条一号の規定は、憲法二一条一項に違反しない。
三 裁判官が、その取扱いが政治的問題となっていた法案を廃案に追い込もうとする党派的な運動の一環として開かれた集会において、会場の一般参加者席から、裁判官であることを明らかにした上で、「当初、この集会において、盗聴法と令状主義というテーマのシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったが、事前に所長から集会に参加すれば懲戒処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場で発言しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」との趣旨の発言をした行為は、判示の事実関係の下においては、右集会の参加者に対し、右法案が裁判官の立場からみて令状主義に照らして問題のあるものであり、その廃案を求めることは正当であるという同人の意見を伝えるものというべきであり、右集会の開催を決定し右法案を廃案に追い込むことを目的として共同して行動している諸団体の組織的、計画的、継続的な反対運動を拡大、発展させ、右目的を達成させることを積極的に支援しこれを推進するものであって、裁判所法五二条一号が禁止している「積極的に政治運動をすること」に該当する。
五 裁判官分限事件には、憲法八二条一項は適用されない。
「積極的に政治運動をすること」の意義及びその禁止の合憲性
憲法は、近代民主主義国家の採る三権分立主義を採用している。その中で、司法は、法律上の紛争について、紛争当事者から独立した第三者である裁判所が、中立・公正な立場から法を適用し、具体的な法が何であるかを宣言して紛争を解決することによって、国民の自由と権利を守り、法秩序を維持することをその任務としている。このような司法権の担い手である裁判官は、中立・公正な立場に立つ者でなければならず、その良心に従い独立してその職権を行い、憲法と法律にのみ拘束されるものとされ(憲法七六条三項)、また、その独立を保障するため、裁判官には手厚い身分保障がされている(憲法七八条ないし八○条)のである。裁判官は、独立して中立・公正な立場に立ってその職務を行わなければならないのであるが、外見上も中立・公正を害さないように自律、自制すべきことが要請される。司法に対する国民の信頼は、具体的な裁判の内容の公正、裁判運営の適正はもとより当然のこととして、外見的にも中立・公正な裁判官の態度によって支えられるからである。したがって、裁判官は、いかなる勢力からも影響を受けることがあってはならず、とりわけ政治的な勢力との間には一線を画さなければならない。そのような要請は、司法の使命、本質から当然に導かれるところであり、現行憲法下における我が国の裁判官は、違憲立法審査権を有し、法令や処分の憲法適合性を審査することができ、また、行政事件や国家賠償請求事件などを取り扱い、立法府や行政府の行為の適否を判断する権限を有しているのであるから、特にその要請が強いというべきである。職務を離れた私人としての行為であっても、裁判官が政治的な勢力にくみする行動に及ぶときは、当該裁判官に中立・公正な裁判を期待することはできないと国民から見られるのは、避けられないところである。身分を保障され政治的責任を負わない裁判官が政治の方向に影響を与えるような行動に及ぶことは、右のような意味において裁判の存立する基礎を崩し、裁判官の中立・公正に対する国民の信頼を揺るがすばかりでなく、立法権や行政権に対する不当な干渉、侵害にもつながることになるということができる。
これらのことからすると、裁判所法五二条一号が裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止しているのは、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにその目的があるものと解される。
以上のような見地に立って考えると、「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものが、これに該当すると解され、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、その行為の内容、その行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、その行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当である。
憲法二一条一項の表現の自由は基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、その保障は裁判官にも及び、裁判官も一市民として右自由を有することは当然である。しかし、右自由も、もとより絶対的なものではなく、憲法上の他の要請により制約を受けることがあるのであって、前記のような憲法上の特別な地位である裁判官の職にある者の言動については、おのずから一定の制約を免れないというべきである。裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止することは、必然的に裁判官の表現の自由を一定範囲で制約することにはなるが、右制約が合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならず、右の禁止の目的が正当であって、その目的と禁止との間に合理的関連性があり、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡を失するものでないなら、憲法二一条一項に違反しないというべきである。そして、右の禁止の目的は、前記のとおり、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにあり、この立法目的は、もとより正当である。
また、裁判官が積極的に政治運動をすることは前記のように裁判官の独立及び中立・公正を害し、裁判に対する国民の信頼を損なうおそれが大きいから、積極的に政治運動をすることを禁止することと右の禁止目的との間に合理的な関連性があることは明らかである。さらに、裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず、かつ、積極的に政治運動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではない。他面、禁止により得られる利益は、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するなどというものであるから、得られる利益は失われる利益に比して更に重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。そして、「積極的に政治運動をすること」という文言が文面上不明確であるともいえないことは、前記1に示したところから明らかである。したがって、裁判官が「積極的政治運動をすること」を禁止することは、もとより憲法二一条一項に違反するものではない。
懲戒事由該当性及び懲戒の選択
裁判所法四九条にいう「職務上の義務」は、裁判官が職務を遂行するに当たって遵守すべき義務に限られるものではなく、純然たる私的行為においても裁判官の職にあることに伴って負っている義務をも含むものと解され、積極的に政治運動をしてはならないという義務は、職務遂行中と否とを問わず裁判官の職にある限り遵守すべき義務であるから、右の「職務上の義務」に当たる。
【事実】
仙台地裁その他の寺西裁判官が、裁判官であることを明らかにして、いわゆる通信傍受法制定に関しての否定的な意見の投書を朝日新聞に対して行った。同紙が「信頼できない盗聴令状捜査」と題して朝刊に掲載したところ、同法に反対する3つの団体から集会のパネリストとしての参加要請があったところ、寺西裁判官はこれを承諾した。これを知った仙台地裁所長が、同行為が裁判所法52条1号の禁止する「積極的に政治運動をすること」に当たり懲戒処分もありえると警告したためパネリストとして参加することを辞退した。しかし、当日、集会に参加し、パネルディスカッション開始直前にフロアから身分を明かした上で「当初、この集会において、盗聴法と令状主義というテーマのシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったが、事前に所長から集会に参加すれば懲戒処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場で発言しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」と発言した。そこで仙台高裁に分限裁判が申し立てられ懲戒処分がなされたので、寺西裁判官が最高裁に即時抗告を行った。
レペタ事件
◆平成1年3月8日 大法廷・判決 昭和63(オ)436 メモ採取不許可国家賠償 (民集第43巻2号89頁)
【判示時効】
一 法定で傍聴人がメモを取ることと憲法八二条一項
二 法廷で傍聴人がメモを取ることと憲法二一条一項
三 法廷警察権行使についての裁量の範囲
四 法廷でメモを取ることを報道機関の記者に対してのみ許可することと憲法一四条一項
五 法廷警察権の行使と国家賠償法一条一項の違法性
一 憲法八二条一項は、法廷で傍聴人がメモを取ることを権利として保障しているものではない。
二 法廷で傍聴人がメモを取ることは、その見聞する裁判を認識記憶するためにされるものである限り、憲法二一条一項の精神に照らし尊重に値し、故なく妨げられてはならない。
三 法廷警察権の行使は、裁判長の広範な裁量に委ねられ、その行使の要否、執るべき措置についての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならない。
四 法廷でメモを取ることを司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ許可し、一般傍聴人に対して禁止する裁判長の措置は、憲法一四条一項に違反しない。
五 法廷警察権の行使は、法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国家賠償法一条一項にいう違法な公権力の行使ということはできない。
【参照法条】憲法14条1項,憲法21条1項,憲法82条1項,裁判所法71条,刑訴法288条2項,国家賠償法1条1項
一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
上告人は、米国ワシントン州弁護士の資格を有する者で、国際交流基金の特別研究員として我が国における証券市場及びこれに関する法的規制の研究に従事し、右研究の一環として、昭和五七年一〇月以来、東京地方裁判所における被告人加藤ロに対する所得税法違反被告事件の各公判期日における公判を傍聴した。右事件を担当する裁判長は、各公判期日において傍聴人がメモを取ることをあらかじめ一般的に禁止していたので、上告人は、各公判期日に先立ちその許可を求めたが、本件裁判長はこれを許さなかつた。本件裁判長は、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対しては、各公判期日においてメモを取ることを許可していた。
憲法八二条一項の規定は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、各人は、裁判を傍聴することができることとなるが、右規定は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより、傍聴人に対して法廷においてメモを取ることを権利として保障しているものでないことも、いうまでもないところである。
筆記行為は、・・・そのすべてが憲法の保障する自由に関係するものということはできないが、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法二一条一項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、傍聴人は法廷における裁判を見聞することができるのであるから、傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。もつとも、情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由といえども、他者の人権と衝突する場合にはそれとの調整を図る上において、又はこれに優越する公共の利益が存在する場合にはそれを確保する必要から、一定の合理的制限を受けることがあることはやむを得ないところである。しかも、右の筆記行為の自由は、憲法二一条一項の規定によつて直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。
これを傍聴人のメモを取る行為についていえば、法廷は、事件を審理、裁判する場、すなわち、事実を審究し、法律を適用して、適正かつ迅速な裁判を実現すべく、裁判官及び訴訟関係人が全神経を集中すべき場であつて、そこにおいて最も尊重されなければならないのは、適正かつ迅速な裁判を実現することである・・・したがつて、公正かつ円滑な訴訟の運営は、傍聴人がメモを取ることに比べれば、はるかに優越する法益であることは多言を要しないところである。してみれば、そのメモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。適正な裁判の実現のためには、傍聴それ自体をも制限することができるとされているところでもある(刑訴規則二〇二条、一二三条二項参照)。
メモを取る行為が意を通じた傍聴人によつて一斉に行われるなど、それがデモンストレーシヨンの様相を呈する場合などは論外としても、当該事件の内容、証人、被告人の年齢や性格、傍聴人と事件との関係等の諸事情によつては、メモを取る行為そのものが、審理、裁判の場にふさわしくない雰囲気を醸し出したり、証人、被告人に不当な心理的圧迫などの影響を及ぼしたりすることがあり、ひいては公正かつ円滑な訴訟の運営が妨げられるおそれが生ずる場合のあり得ることは否定できない。しかしながら、それにもかかわらず、傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであつて、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法二一条一項の規定の精神に合致するものということができる。
本件裁判長が、各公判期日において、上告人に対してはメモを取ることを禁止しながら、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してはこれを許可していたことは、前示のとおりである。憲法一四条一項の規定は、各人に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であつて、それぞれの事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではないと解すべきである(最高裁昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁等参照)とともに、報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供するものであつて、事実の報道の自由は、表現の自由を定めた憲法二一条一項の規定の保障の下にあることはいうまでもなく、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由も、憲法二一条の規定の精神に照らし、十分尊重に値するものである(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・刑集二三巻一一号一四九〇頁)。そうであつてみれば、以上の趣旨が法廷警察権の行使に当たつて配慮されることがあつても、裁判の報道の重要性に照らせば当然であり、報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできないというべきである。
本件裁判長において執つた右の措置は、このような配慮に基づくものと思料されるから、合理性を欠くとまでいうことはできず、憲法一四条一項の規定に違反するものではない。
七1 原審の確定した前示事実関係の下においては、本件裁判長が法廷警察権に基づき傍聴人に対してあらかじめ一般的にメモを取ることを禁止した上、上告人に対しこれを許可しなかつた措置(以下「本件措置」という。)は、これを妥当なものとして積極的に肯認し得る事由を見出すことができない。上告人がメモを取ることが、法廷内の秩序や静穏を乱したり、審理、裁判の場にふさわしくない雰囲気を醸し出したり、あるいは証人、被告人に不当な影響を与えたりするなど公正かつ円滑な訴訟の運営の妨げとなるおそれがあつたとはいえないのであるから、本件措置は、合理的根拠を欠いた法廷警察権の行使であるというべきである。
・・・法廷警察権は、裁判所法七一条、刑訴法二八八条二項の各規定に従つて行使されなければならないことはいうまでもないが、前示のような法廷警察権の趣旨、目的、更に遡つて法の支配の精神に照らせば、その行使に当たつての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならない。したがつて、それに基づく裁判長の措置は、それが法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な公権力の行使ということはできないものと解するのが相当である。このことは、前示のような法廷における傍聴人の立場にかんがみるとき、傍聴人のメモを取る行為に対する法廷警察権の行使についても妥当するものといわなければならない。
本件措置が執られた当時には、法廷警察権に基づき傍聴人がメモを取ることを一般的に禁止して開廷するのが相当であるとの見解も広く採用され、相当数の裁判所において同様の措置が執られていたことは前示のとおりであり、本件措置には前示のような特段の事情があるとまではいえないから、本件措置が配慮を欠いていたことが認められるにもかかわらず、これが国家賠償法一条一項の規定にいう違法な公権力の行使に当たるとまでは、断ずることはできない。
あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反事件
◆昭和36年2月15日 大法定判決 昭和29(あ)2861 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反被告事件 刑集第15巻2号347頁
【判示事項】
あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復法第七条の合憲性
【裁判要旨】
あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復法第七条は、憲法第一一条ないし第一三条、第一九条、第二一条に違反しない。
【参照法条】
あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法7条,憲法11条,憲法12条,憲法13条,憲法19条,憲法21条
あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法七条は、あん摩、はり、きゆう等の業務又は施術所に関し、いかなる方法によるを問わず、同条一項各号に列挙する事項以外の事項について広告することを禁止し、同項により広告することができる事項についても、施術者の技能、施術方法又は経歴に関する事項にわたつてはならないものとしている。そして本件につき原審の適法に認定した事実は、被告人はきゆう業を営む者であるところその業に関しきゆうの適応症であるとした神経痛、リヨウマチ、血の道、胃腸病等の病名を記載したビラ約七〇三〇枚を判示各所に配布したというのであつて、その記載内容が前記列挙事項に当らないことは明らかであるから、右にいわゆる適応症の記載が被告人の技能を広告したものと認められるかどうか、またきゆうが実際に右病気に効果があるかどうかに拘らず、被告人の右所為は、同条に違反するものといわなければならない。
論旨は、本件広告はきゆうの適応症を一般に知らしめようとしたものに過ぎないのであつて、何ら公共の福祉に反するところはないから、同条がこのような広告までも禁止する趣旨であるとすれば、同条は憲法一一条ないし一三条、一九条、二一条に違反し無効であると主張する。
しかし本法があん摩、はり、きゆう等の業務又は施術所に関し前記のような制限を設け、いわゆる適応症の広告をも許さないゆえんのものは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。されば同条は憲法二一条に違反せず、同条違反の論旨は理由がない。
なお右のような広告の制限をしても、これがため思想及び良心の自由を害するものではないし、また右広告の制限が公共の福祉のために設けられたものであることは前示説明のとおりであるから、右規定は憲法一一ないし一三条及び一九条にも違反せず、この点に関する論旨も理由がない。
【解説】
広告などの営利的表現についても憲法21条1項によって保障される。しかし、営利的表現は、国民の健康や日常経済活動に影響することが多く、また、本来の表現の自由の価値である国民の自己統治に役立つ度合いが少ないなどから、その保障は非営利的表現の自由の保障より低いものとされる。
大阪市屋外広告物条例違反事件
◆昭和43年12月18日 最高裁大法廷判決 昭和41(あ)536 事件名 大阪市屋外広告物条例違反被告事件 刑集第22巻13号1549頁
【判示事項】
昭和三一年大阪市条例第三九号大阪市屋外広告物条例第一三条第一号第四条第二項第一号第三項第一号と憲法第二一条裁判要旨 昭和三一年大阪市条例第三九号大阪市屋外広告物条例第一三条第一号、第四条第二項第一号、第三項第一号は、憲法第二一条に違反しない。
【参照法条】
憲法21条,屋外広告物法1条,屋外広告物法2条,大阪市屋外広告物条例1条,大阪市屋外広告物条例13条1号,大阪市屋外広告物条例4条2項1号,大阪市屋外広告物条例3項1号
被告人両名は、法定の除外事由がないのに、原審相被告人AおよびBと共謀のうえ、右AとB、被告人両名の二組に分かれて、「四十五年の危機迫る!!国民よ決起せよ!!C会本部」などと印刷したビラ合計二六枚を大阪市屋外広告物条例(昭和三一年大阪市条例第三九号)によりはり紙等の表示を禁止された物件である大阪市内の一三箇所の橋柱、電柱および電信柱にのりではりつけたというのであり、右各所為に対し刑法六〇条、大阪市屋外広告物条例一三条一号、四条二項、三項各一号等を適用し、被告人Dを罰金八、〇〇〇円に、被告人Eを罰金五、〇〇〇円に処しているのである。
論旨は、まず、原判決は、なんら営利と関係のない純粋な思想・政治・社会運動である本件印刷物の貼付に大阪市屋外広告物条例の右各条項を適用した第一審判決を是認したが、右各条項は憲法二一条に違反すると主張する。
よつて、右論旨を検討すると、前記大阪市屋外広告物条例は、屋外広告物法(昭和二四年法律第一八九号)に基づいて制定されたもので、右法律と条例の両者相待つて、大阪市における美観風致を維持し、および公衆に対する危害を防止するために、屋外広告物の表示の場所および方法ならびに屋外広告物を掲出する物件の設置および維持について必要な規制をしているのであり、本件印刷物の貼付が所論のように営利と関係のないものであるとしても、右法律および条例の規制の対象とされているものと解すべきところ被告人らのした橋柱、電柱、電信柱にビラをはりつけた本件各所為のごときは、都市の美観風致を害するものとして規制の対象とされているものと認めるのを相当とする。そして、国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持する所以であるから、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要且つ合理的な制限と解することができる。従つて、所論の各禁止規定を憲法に違反するものということはできず、右と同趣旨に出た原判決の判断は相当であつて、論旨は理由がない。
愛知原水協事件
◆昭和45年6月17日 最高裁大法廷判決 昭和42(あ)1626 事件名 軽犯罪法違反等被告事件 刑集第24巻6号280頁
【判示事項】 軽犯罪法一条三三号前段と憲法二一条一項
【裁判要旨】 軽犯罪法一条三三号前段は、憲法二一条一項に違反しない。
【参照法条】 軽犯罪法1条33号前段,憲法21条1項,憲法31条
第一審判決によれば、その確定した罪となるべき事実は、被告人両名は共謀のうえ、いずれも県道上に敷設された、A電力株式会社の所有にかかりB興業株式会社一宮営業所長の管理する・・・電柱に、それぞれ電柱の所有者または管理者の承諾を得ず、正当な事由がないのに、「第一〇回原水爆禁止世界大会を成功させよう、愛知原水協」などと印刷したビラ(縦五四センチメートル、横一九・五センチメートルの紙)合計八四枚を、糊を使用して裏面が全面的に密着する方法ではりつけたというのであり、右所為に対し刑法六〇条、軽犯罪法一条三三号前段等を適用し、被告人両名を各拘留一〇日に処しているのである。
軽犯罪法一条三三号前段は、主として他人の家屋その他の工作物に関する財産権、管理権を保護するために、みだりにこれらの物にはり札をする行為を規制の対象としているものと解すべきところ、たとい思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは、もとより許されないところであるといわなければならない。したがつて、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限であつて、右法条を憲法二一条一項に違反するものということはできず、右と同趣旨に出た原判決の判断は正当であつて、論旨は理由がない。
次に、論旨は、軽犯罪法一条三三号前段は憲法三一条に違反すると主張するが、右法条にいう「みだりに」とは、他人の家屋その他の工作物にはり札をするにつき、社会通念上正当な理由があると認められない場合を指称するものと解するのが相当であつて、所論のように、その文言があいまいであるとか、犯罪の構成要件が明確でないとは認められないから、所論違憲の主張は、その前提を欠き、採用することができない。
鉄道営業法違反・建造物侵入被告事件
◆昭和59年12月18日 最高裁判所第三小法廷判決 昭和59(あ)206 鉄道営業法違反、建造物侵入被告事件 刑集第38巻12号3026頁
【判示事項】
一 鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段を適用しても憲法二一条一項に違反しないとされた事例
【裁判要旨】
一 駅係員の許諾を受けないで駅構内において乗降客らに対しビラ多数を配布して演説等を繰り返したうえ、駅管理者からの退去要求を無視して約二〇分間にわたり駅構内に滞留した被告人らの所為につき、鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法二一条一項に違反しない。
【参照法条】
鉄道営業法35条,刑法130条,憲法21条1項
所論は、憲法二一条一項違反をいうが、憲法二一条一項は、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであつて、たとえ思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは許されないといわなければならないから、原判示井の頭線吉祥寺駅構内において、他の数名と共に、同駅係員の許諾を受けないで乗降客らに対しビラ多数枚を配布して演説等を繰り返したうえ、同駅の管理者からの退去要求を無視して約二〇分間にわたり同駅構内に滞留した被告人四名の本件各所為につき、鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法二一条一項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二三年(れ)第一三〇八号同二四年五月一八日判決・刑集三巻六号八三九頁、昭和二四年(れ)第二五九一号同二五年九月二七日判決・刑集四巻九号一七九九頁、昭和四二年(あ)第一六二六号同四五年六月一七日判決・刑集二四巻六号二八〇頁)の趣旨に徴し明らかであつて、所論は理由がない。
基本的人権/精神的自由権(学問の自由と大学の自治)
東大ポポロ事件
◆S38.05.22 大法廷・判決 昭和31(あ)2973 暴力行為等処罰ニ関スル法律違反(刑集第17巻4号370頁)
【判示事項】
一 憲法第二三条の趣旨。
二 学生集会と大学の有する学問の自由および自治。
【要旨】
一 憲法第二三条の学問の自由は、学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含み、同条は、広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに、特に大学におけるそれらの自由および大学における教授の自由を保障することを趣旨としたものである。
二 学生の集会は、大学の許可したものであつても真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当る行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しない。
【参照・法条】憲法23条
同(憲法二三)条の学問の自由は、学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含むものであつて、・・・ 特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである。
大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている。
・・・大学の学問の自由と自治は、大学が学術の中心として深く真理を探求し、専門の学芸を教授研究することを本質とすることに基づくから、直接には教授その他の研究者の研究、その結果の発表、研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味すると解される。大学の施設と学生は、これらの自由と自治の効果として、施設が大学当局によつて自治的に管理され、学生も学問の自由と施設の利用を認められる。・・・ しかし、大学の学生としてそれ以上に学問の自由を享有し、また大学当局の自冶的管理による施設を利用できるのは、大学の本質に基づき、大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである。
大学における学生の集会も、右の範囲において自由と自治を認められるものであつて、・・・ 学生の集会が真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当る行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しないといわなければならない。
本件のA演劇発表会は・・・いわゆる反植民地闘争デーの一環として行なわれ、演劇の内容もいわゆる松川事件に取材し・・・ これらはすべて実社会の政治的社会的活動に当る行為にほかならないのであつて、本件集会はそれによつてもはや真に学問的な研究と発表のためのものでなくなるといわなければならない。・・・ そうして見れば、本件集会は、真に学問的な研究と発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動であり、・・・ 大学の学問の自由と自治は、これを享有しないといわなければならない。したがつて、本件の集会に警察官が立ち入つたことは、大学の学問の自由と自治を犯すものではない。
(平成5年・7年出題)